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 最初こそ抵抗していた槙田先生だが、一度入ってしまうと意外と大丈夫だったことに気付いたのか二度目はすんなり手術室へ入れた。カメラを持ったり器具を渡したりするだけの地味な作業から、切開、縫合結紮と増やしていく。リハビリを始めて一週間経った頃にはヘルニアやポリープの切除などの簡単な手術は難なくこなせるようになっていた。シミュレーターではあんなに強張っていたのに、実際にやるとあっけないほどスムーズに進んだ。 「めちゃくちゃ順調じゃないですか!」 「そうだね。思ったよりいけるかもしれない」    一緒に手術室に入った助手や看護師たちもすごいすごいと持て囃す。槙田先生が手術に入り出すと医局でもたちまち注目を浴びるようになった。中にはイップスの経緯を興味本位で知りたがる下世話な人もいたが、大抵は応援してくれるし、事情を知っている川上先生は特に感慨深いものがあるらしかった。 「槙田先生の手術が見られるようになるなら、いくらでも協力します!」 「一人でも多く手術できる先生がいると助かりますからね~」 「エラそうに指図されなくなるなら、手を貸すくらいしますよ」  槙田先生に苦手意識を持っていた遠野くんや福沢さん、山本先生までもがそうやって優しい言葉をかけてくれるから、本人もそれに応えようとする。まるで病院という名の保育園で大きな子どもを育てているような気分だった。高坂さんの化学療法が順調に進んだとしても、手術をするまでに少なくとも二ヵ月はある。この調子なら本当に治るかもしれないと誰もが期待をしていた。けれども現実はそう容易くない。 「……ごめん、代わって」
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