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「でも、ぶっちゃけ大変でしょ。遠野くんや伊藤くんたちのフォローもしてるじゃん」  正直、確かに忙しい。槙田先生のリハビリのために手術を代わってもらったかわりに遠野くんたちには難易度高めの手術に入ってもらい、だけど完全に任せておくわけにもいかないのでわたしが一緒に入って指導するようにしている。若手医師たちが執刀するとどうしても時間がかかる。そしてその分、その後の予定が狂う。それと同時に外来や回診など通常業務も当然こなさなければならないので、帰る頃には日付けが変わっていたり、気付けば一日何も食べていなかった、ということもざらだ。 「大変じゃない、とは言いませんけど、苦じゃないので。若手が育ついい機会でもあるでしょ。槙田先生や遠野くんたちが術式選ばずオペに入れるようになったら、楽になりますし!」 「……ぶっ倒れる前に言ってね」 「そうなったらまた槙田先生に家まで運んでもらうので」 「ゴミ屋敷になってない? ダイジョブ?」 「ゴミ屋敷になる前に片付けてるんで、ギリ大丈夫」 「ギリかよ」  そのうち、わたしたちは必要以上に触れ合わなくなっていった。キスすらもしなくなった。気持ちが冷めたのではなく、触れ合ったところで謝られるのが嫌だったし、槙田先生も体が言うことを聞かない事実を毎回痛感するのが嫌だったのだと思う。それでもなんとか関係を保てているのは、互いに気遣いと励ましを忘れずにいるからだった。  イップスもEDも克服できるのが一番いいけれど、万が一克服できなくても一緒に過ごせるだけで充分。焦っちゃいけない。そう言い聞かせたいのは、もしかしたら槙田先生にじゃなく、わたし自身にかもしれない。
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