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 医局で事務作業をしている槙田先生に皐月さんのことを話したら、疲れた顔が更にへにゃりとくたびれ、長い息を吐いた。 「断ろうよ、そこは」 「他にも話したいことがあるのかなって思ったので」 「そんな時間ないよ」 「嫌なら断ってきますけど。ただ一つ言わせていただくと、頑なに邪険にすると逆に意識しているように見えるので、本当に自分の中に未練がないならきちんと話し合ったほうがいいと思います」  槙田先生は驚いたような、でもムッとした目でわたしを見た。言い返してもこないので少しは図星だったらしい。 「……分かったよ」  本当はわたしだって二人きりにさせたくないし、会って欲しくもない。けれども槙田先生の皐月さんに対する冷たい態度は、わたしに気を遣ってわざと大袈裟に邪険にしているんじゃないかと思う時がある。その遠回しな優しさがかえって不安になるのだ。もし槙田先生が皐月さんと話し合うことで蟠りが消えるならそれが一番いい。槙田先生の中にチラつく皐月さんの影がなくなるなら。  ――でも皐月さんに情が戻ったら?  皐月さんは地味な人だが、わたしでも瞠るほど色っぽい瞬間があるし、長年の付き合いを経て夫婦になったのだから、お互いに特別な人であることに変わりない。はず。わたしは結婚をしたことがないからすべては分からないけど、高校時代の彼氏だったというだけの和樹にすら情はあるのだから、夫婦なら尚更だろう。  一度不穏な妄想をするとどんどん止まらなくなってくる。なんで強がって「話し合え」なんてけしかけてしまったのか。こんなところでも無駄に培ったプライドが邪魔をして、気にしていない余裕のあるふりをしてしまう。不安だと素直に言えばいいものを強がるから、可愛げがないと言われるのか。  その後、槙田先生から『今夜、少し話すことになったから先に帰ってて』とスマートフォンにメッセージが入ったのは、帰り支度を済ませてからのことだった。
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