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 ―――  翌朝、出勤時間より一時間ほど早く槙田先生が車でマンションまでやって来た。皐月さんとの話し合いの報告をしたいからと、昨晩のうちに連絡をくれていたのだ。  急いで支度を済ませてマンションを出て、路地で駐車している槙田先生の車に乗り込んだ。挨拶をしたあと温かい缶コーヒーを渡されて、暫く他愛ない会話をする。腕時計に目をやって時間を気にした槙田先生から本題に触れた。 「昨日、あいつと話したんだけど、とりあえず親父さんの治療が最優先だから主治医は任すと言われた」  それはわたしも聞いたことだ。肝心なのは、 「じゃあ、なんで俺を指名したんだって聞いたんだよ。そしたら、『手術できるようになるきっかけになればいいと思った』ってよ。どうも俺がイップスでオペできないの知ってたみたい」  それから槙田先生は皐月さんの言葉をほぼその通りに教えてくれた。  ――この病院にかかる前、大学病院に行ったの。最初に診て下さった先生がたまたまあなたのことをご存知で、この総合病院にいることを教えて下さった。……手術ができないんですってね、あの日から。―― 「あいつは俺がオペできなくなったのが自分のせいなら、またオペができるようになるきっかけを作れるのも自分なんじゃないかって、そう思ったんだと。罪悪感でも感じたのかね、どの口が言ってんだっての」  明るく笑って言うのが、空元気に見える。 「……高坂さん……お父さんも槙田先生を指名したがってたのは本当?」 「うん。俺と皐月が離婚して暫く経ってから離婚の本当の理由を知ったみたいで」  ――離婚の本当の原因は、両親には話したの。両親はあなたを一方的に悪いと決め付けて責めたことを後悔してた。父は、自分が食道がんだと知った時、因果応報だと言ったわ。陽太が手術をできなくなったのはわたしたちのせいだから。その償いがしたくて……あなたが手術ができるようになるきっかけを作りたいの。――
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