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「とにかくオペ室に行きましょう。高坂さんももう入ってる頃です」 「……行ってきて、俺はたぶん失敗する」 「助手にも入らないってことですか!?」 「俺がいなくてもできるだろ」 「高坂さんは槙田先生に執刀してもらいたいのよ!?」 「大体それが間違ってるだろ! 向こうだって俺の手術は失敗すると思ってんだから!」  ヒートアップするわたしたちの口喧嘩に、医局内にいる他の医師たちがざわつき始めた。 「――分かりました」  頭を冷やすため、いったん間を置くことにする。わたしは槙田先生に背を向け、先に手術室へ――と、見せかけて、振り返りざまに思いっきり槙田先生の頬を引っ叩いた。クリーンヒットしたのか、それはもう気持ちがいい音だった。槙田先生は椅子から滑り落ち、頬を押さえてあんぐりとした。 「え……なに、痛……」 「アンタみたいなヘタレはもう知らない。見損なったわ、このクズ! 自信があろうがなかろうが、患者を前にして逃げるなんて外科医として最低! さっさと医師免許返してきなさいよ!」  一度叫んだらもう止まらない。わたしは今までの溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのように当たり散らした。槙田先生を含め、周囲はドン引きだ。もうどうでもいい。引くなら引け。 「あ~~~ガラにもなく自分は医師に向いてないんじゃないかとか落ち込んでたのが馬鹿みたいッ」 「え、落ち込んでたの……?」 「でもたった今、アンタよりマシだって気付いたわ!」  腰を抜かして地べたにへたり込んでいる槙田先生の胸ぐらを掴み上げる。 「わたしはプライドが高くて打算的で見栄っ張りで自分のことしか考えてないような女だけどね、例え完治できなくても目の前にいる患者を見捨てるような真似はしない。怖いならそうやってずっと逃げてれば!?」
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