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「呼び出しがあるって?」 「今日、手術したんだけど高齢者だから術後が心配でね。念のため」 「他の医者に頼めねーの?」 「当直医はいるけど、担当患者だからさ」 「よく分かんないけど、大変そうだな」  本当にそう思ってなさそうな言い方で、和樹はかまわずモスコミュールを注文する。そして昔と変わらない調子で近況を話し出した。  IT企業の営業をしていた和樹は会う度にノルマに頭を悩ませていたが、最近違う部署に配属されたのだとか。少し楽になったのか今日は愚痴が少なく、笑顔が多かった。会社で認められたことや達成して嬉しかったことを揚々と話す。わたしはそれをジンジャーエールを飲みながらうんうんと聞いていた。和樹の話を聞くのは好きだ。わたしは医療業界のことしか分からないので畑違いの分野のことを知るのは楽しい。何より子どもみたいに聞いて聞いて、と楽しそうに話す和樹を見ていると、付き合っていた頃を思い出してはこういうところが好きだったなと懐かしくなった。 「楓子は? やっぱり寝る暇もないの?」 「大学病院にいた頃は忙しかったけど、今の病院はそんなことないわよ。手術日はちゃんと決まってるし、急患が少なかったり担当患者の容体が安定してれば早く帰れる」  ふーん、とグラスに口をつける和樹。自分から話を振っておいてあまり真剣に聞かない。こういうところは嫌だったなというのも思い出してしまった。 「彼氏いんの? 結婚は?」 「悲しいかなそんな相手も予定もございません」  ここで無神経に惚気話でも聞かされたらたまらない。けれども和樹は「俺もなんだ」と歯を見せて笑った。
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