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 ***  けたたましいスマートフォンのアラームが耳のすぐ傍で鳴り響いた。目と心臓が飛び出る勢いで目が覚め、慌ててアラームを止めると窓の外から雀の囀りが聞こえてきた。自分の部屋。寝ながら蹴り飛ばしたタオルケット。いつもの朝である。 「え、夢!?」  すぐさま左手を確認したら、薬指にはちゃんと指輪が入ったままだ。わたしはそれに心底安堵して、早朝から小躍りしながら支度を始めた。  メイクも身だしなみもばっちり決めて、カンファレンスにも遅れず出席。入院担当患者の容体も把握済み。今日は午前中に手術が一件。大きな手術なので気合いを入れて取り掛からねばならない。アクセサリーケースに指輪を大事にしまい、代わりに着けるのはゴム手袋。看護師や麻酔科医に挨拶をし、手術室に入ったら既に槙田先生が入室していた。 「今日の手術、予習してる?」 「勿論ですよ。幽門側胃切除とビルロード法」  CT画像を一緒に確認しながら、槙田先生が小声で言う。 「浮かれてオペ中にポケーッとしないか心配してたけど、大丈夫そうだね」 「なめないで下さいよ。わたしを誰だと思ってるんですか」 「はいはい、消化器外科の名医」
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