547人が本棚に入れています
本棚に追加
/201ページ
小馬鹿にして笑う槙田先生のつま先を踏んづけた。
槙田先生の憎たらしさは変わらずで、わたしは度々腹を立てている。意見が食い違ってぶつかることもあれば、言いたいことが伝わらなくて悲しくなる時もある。やっぱり嫌な男だと思う時だってある。
恋人もプロポーズも思い描いていた理想とはかけ離れているし、仕事もプライベートも上手くいかずに落ち込むこともある。それでもわたしは諦めかけていた夢を、確実に掴んだ。想定外の、けれどもこれ以上ないシナリオだったなと、真剣にCT画像をチェックする槙田先生の横顔を見て改めてときめいてしまうのだった。
そして何より、
「タイムアウトお願いします」
「んじゃ、いきますか、橘先生」
気持ちを切り替えるようにマスクの下で息を吐く。眠りの中にいる患者を囲み、今日も心の中で唱えた。わたしは美しくて、みんなに頼られるいい医師。
そうやって鼓舞してメスを取る。そんなプライドが高くて自惚れた自分が、やっぱり好きだ。
了
最初のコメントを投稿しよう!