槙田陽太 1

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槙田陽太 1

 女は面倒臭い。  あざとくて我儘で何かと言えばヒスを起こす。若い頃はそんなのも可愛いと思えたが、仕事に追われて自分のことで精一杯になると、そんな重たい感情などただ煩わしいだけだった。  元嫁――皐月は、そういうことはなかったように思う。あれこれ干渉してこないし、こっちの気持ちを試すような真似もしない。かといって無関心というわけではなく、俺の仕事が落ち着く頃を見計らってデートのスケジュールを組んでくれたり、仕事が忙しくてすれ違いになりがちな中で栄養のある食事で陰ながら生活をサポートしてくれた。俺はもともと自分のことをベラベラ喋る人間じゃないが、だからこそ俺がふと漏らした愚痴や雑談にニコニコと耳を傾けてくれた。まあ、正直理想的な女ではあった。  だが、そんな奴ですら、多少退屈でも長年信頼関係を築いたパートナーより、背徳感を孕んだ刺激的な恋愛を選ぶのだと知った途端に何もかも下らなくなった。愛だの恋だのしょうもない。  機能しなくなった下半身に不思議と焦りもショックもなかった。セックスができないならできないで仕方ない。例え遊びででも女はこりごりだ。  ――って、思ってたんだけどな。
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