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「……だから謝ってるじゃん、それは」
「は? 謝ってないけど?」
「え? 嘘。謝ってない?」
「ごめんの『ご』の字も聞いてないけど? なんの悪びれもなくヘラヘラして『おまたせー』としか言ってませんけど?」
なるほど、今の楓子ちゃんは予定を狂わされたことより、俺が反省の色を見せていないことに一番腹を立てているのだろう。
俺はズリズリと楓子ちゃんににじり寄って、やや強引に腕を引っ張って膝の上に抱いた。腹に両腕を巻き付けて抱き締めると甘い匂いがする。
「ごめんね、約束破って。昨日、仕事終わるの遅かったからさ。俺もなかなか疲れ取れなかったんだよね」
「……」
「次の休み、絶対行こう」
「次の休みは、わたしが当直」
「じゃ、次の休み」
「陽太が当直」
「じゃあ、その次は?」
「ってなると、三週間は空くのよ」
「……ふむ……」
「だから今日、行ける時に行きたかったの。まだ時間があるから行けたじゃんって話じゃないのよ。約束してた予定を簡単にずらされると、楽しみだった気持ちとか全部台無しになるのよ。一緒に行きたい気持ちがなくなるの」
そんなにテンション下がるほどのことか? と、俺はまだ正直解せないのだけど、それほど俺と出掛けるのを楽しみにしてくれていたのだ。と思うことにして、ここはひたすら機嫌を取っておく。
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