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「誰と付き合っても、俺はやっぱり楓子といる時が一番よかったって思うんだ。自分でも今更って思うんだけど……」  途中から予想した復縁パターンが期待通りの展開を迎えて、感動すら覚えた。しかし浮かれるのはまだ早い。返事は冷静にしなければ。わたしは戸惑う純情な女を演じながら、様々な思案をしていた。  和樹のことは好きだけど、今となっては友達として。今更青春時代のような甘い関係になれるのかと聞かれたら難しいだろう。せいぜい熟年夫婦のような関係だ。  でも、アラフォーならそんなもの? 今から新しい人を探して恋愛してって考えると果てしない道のりだ。それなら復縁したほうが早いし、安心感もある。  そうやって浅ましく色々考えているうちに和樹の顔が迫ってきていた。そして唇が重なった瞬間、――全部どうでもよくなった。  初めて和樹とセックスをしたのは高校二年の冬。エアコンをガンガンにきかせた和樹の部屋でしたのを覚えている。興奮が先走ってか痛いほど胸を掴まれ、後先考えずに跡をつけられたり、力任せにされて痛いこともあった。でも夢中になってくれていることが、ただただ嬉しかった。  触れられる度に遠い記憶を辿ってみたが、今の和樹にそんな肉欲の塊みたいな片鱗はなかった。肌を滑る指は優しくて、ぬるま湯に浸かっているみたいな心地よさだった。どこをどう触れば気持ちいいのか、どんな風にすれば喜ぶのか、女を熟知した抱き方に、和樹のこれまでの経験が窺える。それに嫉妬をするほど純粋ではないけれど、知っているはずなのに知らない人間のような、肌を合わせているのに遠い存在のような、そんな寂しさはあった。  スポーツをしたあととも仕事をしたあととも違う体の怠さに幸福感を抱きながら、ホテルの天井をぼんやり眺める。 「意外と筋肉あるのね」  わたしにしがみついて寝ていた和樹が目を開けた。 「毎日ジムで走ってんだ」 「わたしも筋トレしてるのに、二の腕とかたるんできてるのよ」 「太腿もね」  と、シーツの中で内腿を撫でた。甲をつねっても和樹は手を離すことなく、そのまま付け根まで滑らせる。 「いいじゃん、別に。俺は気にしないよ」  耳元で囁く甘ったるい声。完全に流されてしまったけど、もういいや。婚活に行き詰っていたわたしにはきっとこれでよかった。満足感に頬を綻ばせ、頭の片隅で槙田先生に向かってざまあみろと中指を立てた。
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