槙田陽太 2

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 ***  仕事のスケジュールの関係で式場の話はいったん保留になったが、それで楓子ちゃんが穏やかに過ごしているかと聞かれたら、そうでもないようで。  その日のカンファレンスでみんなの前でプレゼンをしていた楓子ちゃんは、普段なら考えられないようなミスをいくつかして川上先生にことごとく指摘を受けていた。ミスといっても患者の命に関わるようなことではない。本来ならカンファレンスまでにしておいたほうがいい検査ができていなかったとか、間に合わなかったとか、そういったことだ。 「忙しいのを理由にひとつのことが疎かになるくらいなら、オペに入らなくていいよ」  川上先生は大声で怒鳴ったり威圧的に叱責することはしない。普段は気さくで優しい医長だ。それだけにたまに怒ると物言いがひどく冷淡になるので受けるショックはでかい。カンファレンス後、楓子ちゃんはあからさまに落ち込んでいて、デスクで項垂れているところを田中先生に慰められていた。 「川上先生、時々スイッチ入ったように重箱の隅つついてくるのよ。今日はそういう日だったのね。そんなに落ち込まなくて大丈夫。この手術にこの検査はあんまり意味ないのよ。だから橘先生も保留にしてたんでしょ? ちょっと休んできなさいな」  とぼとぼとラウンジに向かう楓子ちゃんの背中を遠目で見送っていたら、田中先生と目が合った。「行ってこい」と顎で指示される。  
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