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我ながら器の小さい男だと思う。皐月は楓子ちゃんになんの怪しさも感じなかったから、ありのままを教えてくれただけだ。それなのにやっぱりいい気がせず、あとなぜ早く家に帰って休まないのかという心配もあって、昼休みに入ると俺はのこのこと病院前のレストランに向かった。
窓から店内を除くと、すぐそこの窓際の席に楓子ちゃんがいた。向かいに座っているのは予想通りの男。顔を見て思い出した。楓子ちゃんの元彼氏でお互いに切り札的存在だったという斬新なお友達。パリッとしたスーツを着こなしたスマートな男だ。大口を開けて笑っている彼らからは友情以外のものは何も感じない。
――が、面白くない。
いくら親しいっつっても気ィ許して笑ってんじゃねぇよ、と。
ガラスにへばりついて楓子ちゃんをじいっと凝視する俺に気付いた二人は、ホラー映画さながらの青い顔で驚いた。その後すぐに楓子ちゃんが店から飛び出してくる。
「なんでここにいるの!?」
店内が暑かったのか? 話が盛り上がって興奮したのか? 楓子ちゃんの顔色はさっきよりも随分良くなった。彼女に笑顔が戻ったのは嬉しいことだ。でも今は単純に腹が立つ。
「こっちの台詞なんだけど」
自分でも驚くほど低い声が出た。楓子ちゃんからじょじょに笑顔が消える。
「顔色悪いから少しでも休んで欲しくて早退してもらったのに、ここで何してんの?」
「え……あ、病院で出たところで貧血になっちゃって、フラフラしてるところで和……友達が偶然通りかかって、助けてくれたの……」
ちらりと店内に目をやると、男は気まずそうに肩を竦めて頭を下げた。
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