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和樹が再び被さってきたところで、鞄の中のスマートフォンが鳴った。パチン、とスイッチがオンに切り替わり、ベッドから飛び降りる。やっぱり病院からだった。今日手術をした患者が高熱を出したとのことだ。こんなこともあろうかと病院の近くのホテルを指定しておいてよかった。
「ごめん、和樹、わたし病院に戻らないと」
床に脱ぎ散らかした服を急いで身に着けながら言うと、和樹は何も答えずに背後からわたしを抱きすくめた。
「他の医者に頼めよ」
「え!? は!? いや、ごめん、それはできない」
「なんだよ、お前だってその気になってたのに?」
勿論その気だった。電話が鳴らなければ。だけど出血とか炎症とか患者の容体をあれこれ考えながらセックスができるほど図太くはない。
「ちょっと、離してくれない? 着られない」
「楓子、頼むよ」
「こっちが頼んでるんだけど!」
急いでいるのに邪魔をされて、つい肘で和樹を突き飛ばした。あっ、と思った時にはもう遅い。和樹は不貞腐れた面持ちでベッドに戻る。
「やっぱ駄目か……」
「何が?」
「お前、なんで医者になったの?」
「え?」
「高校の時、結婚して家族を作るのが夢だって言ってなかったっけ」
「……別にその夢を諦めたつもりはない。でも仕事も大事なの」
「どうしても楓子が行かなきゃいけないのか?」
「さっきから何言ってんの? 当たり前でしょ。わたし外科医なのよ。それ、今話し合わなきゃいけないこと? 悪いけど、急いでるから行くわね」
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