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「家に帰るより、先に座って休んだらって言ってくれて……」
「で、休んだら元気になったから、楽しくお喋りしてたわけね」
「久しぶりだったからつい……あ、でもやましいことは何も」
「んなこたぁ分かってるよ。俺が言ってるのはそこじゃねぇのよ。仕事に支障が出るほど疲れてるから回復するために早く帰ったのに、こんな病院の近くで楽しげにしてるのを他の医師や患者が見たらどう思うか考えろよ。院のイメージがどうのこうのって一番気にしてるのはきみなのに、軽率じゃないのか」
思うところがあったのか、楓子ちゃんは反論せず俯いた。
「ごめ……」
「いくら親しい友達で久しぶりだったからって、はしゃいでるんじゃないよ」
楓子ちゃんの言葉を遮って、たぶん言ってはいけないことを俺は言った。頭のどこかで「やべぇな」という思いはあったが、それ以上に苛々していたのだ。せっかく謝ろうとしていた楓子ちゃんも「そこまで言わなくてもいいじゃない」と声を震わせた。
「最近、ちょっと気が緩んでるんじゃないの。……もう帰りなよ」
楓子ちゃんは珍しく、何も言い返してこなかった。背を向けて病院に戻る俺を追い掛けてもこなかった。
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