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翌朝、院と病棟を繋ぐ渡り廊下で楓子ちゃんと出くわした。今日は体調は良いんだろうか、と、こちらが口を開くより先に「おはようございまーす」と挨拶された。ただし、顔が怖い。声は明るいのに口元と目が笑っていない。おはよう、と返すこちらのほうが引きつってしまった。
「今日は大丈夫なの?」
純粋に体調を心配して聞いたことだったが、楓子ちゃんは嫌味と取ったらしく、「おかげ様で」と食い掛かってくる勢いで答えた。この小憎たらしい気の強さ。昨日、ちょっと言い過ぎたかなと心配して損をした。親しくなる前の彼女を思い出した。
「今日は遠野先生が急な体調不良でお休みだって。聞いてる? 一緒にオペする予定だったよね」
「聞いてますよ。遠野先生は第一助手だったけど……」
言いながら楓子ちゃんは髪の毛を縛った。
「入りたいなら、入ってもいいですよ、槙田先生」
不覚にも言い返せず、通り過ぎていく楓子ちゃんを黙って見送った。我が彼女ながら、
「か、……可愛くねぇ」
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