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悪いが俺も負けず嫌いなんでね。競うつもりはないけど、ああいう風に言われたら受けて立つしかないでしょう。
オペ室に入ったら準備万端の楓子ちゃんがモニターを見ながら予習をしていた。今からやるのは胃の入口にできたがんを取り覗いて、残胃と食道を繋げる手術。
「カルテ見ました?」
「当たり前でしょ。取り残しのないようにね」
手術の腕なんて競うもんじゃない。それぞれの先生がそれぞれの得意分野があって、その中でも得手不得手というものがある。それらを互いにカバーし合うのが、チームってものだ。とはいえ、その昔は俺が一番上手いだろう、という自惚れはあった。大学病院にいた頃も、この病院に来た頃も、他の先生方の手術記録を見ては「もっと手際よくやれよ」と内心悪態をついたものだ。
そんな俺が唯一素直に「すごいな」と思ったのが、楓子ちゃんの縫合結紮だったのだ。全体的な手術時間は長いが、彼女が手術をしたあとの縫い目は本当に綺麗。
指が細いからか?
細かい作業が好きなのか?
ここまで上手くなるのに、どれだけ練習したんだ?
そんな風に想像してしまうくらいに、楓子ちゃんの指先には惹かれるものがある。
患者の術部しか映っていない真剣な眼差し。
楓子ちゃんの長所は、悔しがるだけじゃなく、落ち込むだけじゃなく、怒るだけじゃなく、それをちゃんとバネにして期待以上の仕事をするところだと思う。
――ほんっと、可愛げがねぇなあ。
俺は悔しくも誇らしい気持ちで、そんな彼女の指先に改めて釘付けになった。
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