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「昨日はごめんね、言い過ぎた」
「あれは医師の自覚が足りなかったわたしが悪いから」
決して皮肉ではなく、本当に自省しているらしい。楓子ちゃんはプライドが高いぶん、自分に厳しいところがある。俺の言ったことは間違ってはなかっただろうが、それで彼女が自分を責めているとしたら済まなくなった。
「違うんだよ、医師としての自覚がどうのってことより、本当は俺がヤキモチ妬いただけなんだ」
俯いていた楓子ちゃんがゆっくり顔を上げる。
「実は、高坂さんの定期検診に皐月が付き添いで来てたんだ。その時皐月が楓子ちゃんが男といたのを見たって言ってた。あ、告げ口じゃなくてさ、友達と楽しそうだったよっていう報告なんだけど」
「仕事しないで何やってんだって思われなかったかしら……」
「そんなんじゃないよ。でも俺は体調悪いのに家に帰らずに何してんだろうって心配と、単純に男といるってのが気に入らなくて、女々しく様子見に行っちゃったんだよね。あんまりきみが楽しそうに笑ってるもんだから、ムカついたんだよ」
そしてそこで思った以上に自分は嫉妬深い男なのだと気付いた。
「最近、楓子ちゃん、俺の前では怒ってばっかだから余計に」
すると楓子ちゃんは足を止めて、「やっぱり?」と青ざめた。
「わたしも最近、陽太に対して怒ってばっかりだなって思ってたのよ。あとになってから『あんなに怒ることじゃなかった』って思うんだけど、その時は湧き上がる殺意が抑えられなくて」
「え、殺さないで」
「わたし、一人で自由に生活する時間が長かったから、ペース崩されるとすごく腹が立っちゃうのかも。だから陽太がのんびりしてるとイライラしちゃうのかも」
すげぇ本音だ。だが、分からなくもない。
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