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***  結婚願望が高まっている時にいつも同じ夢を見る。友人から結婚式の招待状が届いた時、出産したと連絡が来た時、弟が婚約した時。昨日は推し俳優がアイドルと結婚したとテレビで見た。失恋に似た落胆の中、鬱々としながらベッドに入ったから、あの夢を見たのだ。決して悪夢じゃない。夢の中にいる時は幸せだ。でもそのぶん目が覚めた時の絶望感が凄まじい。そして惨めになる。わたしは一体いつまで、あの夢を見るのか。 「なんかさー、最初はその話聞く度笑ってたけど、だんだん哀れになってくるわ」  友人の遥がカラカラと氷を鳴らしながら、グラスを回す。可哀想なものを見る目。いつものように笑い飛ばして欲しかったのに、真剣に同情されて虚しさも倍増だ。わたしはビールのジョッキをテーブルに叩きつけた。 「やめて! そんな目で見ないで! 哀れなのは自分が一番分かってるんだから!」  それでも遥は頬杖をついてわたしを冷ややかに見る。 「そんなに結婚したいなら、もっと必死こいて婚活すればいいじゃない、三十九歳」 「年齢を言わないで!」  耳を塞いでテーブルに伏せる。現実からも目を逸らしたいわたしはもはや救いようがない。  三十代最後の年。独身、彼氏なしの立派な中年。必死で婚活しろと遥は言うけど、これでも婚活はしている。いや、していたと言うべきか。お見合いパーティーにも参加したし、知り合いに紹介もしてもらった。だけど上手くいったことがない。付き合っても長続きしないのだ。 「なんでもデキすぎると、かえってとっつきにくいんじゃない?」 「だからこそ人当たり良くしてるんだけどな」 「見た目も仕事も揃ってていいな~ってわたしは思うけど、そんな人だからこその悩みもあるんだなーって楓子を見る度思うわ」  遥は他人事のように言って、タッチパネルで梅酒を注文した。  自分で言うのもなんだけど、わたしはけっこうハイスペックだと思う。顔は悪くない。猫目で鼻筋が通った小悪魔系だが、丸みのある頬のおかげで綺麗と可愛いを兼ね備えたエレガント系美人と言われてきた(昔は)。スタイルも悪くない(胸はないけど)。美脚が売りだ(った)。  父は眼科医、母は元歯科衛生士。当たり前のように医学の道を志し、消化器外科の医師になった。周りからは持て囃されたものだ。美人で頭が良くて医師なんてすごい! と。わたしも悪い気はしなかった。そうなるまでにかなり努力したからプライドもある。だが、その築き上げたスペックとプライドは高くなるほど結婚や恋愛から遠ざかった。  俺がいなくても生きていけるでしょ。  一人で楽しそうじゃん。  俺より仕事優先されるとちょっとね。  大体そういう理由で振られる。それでも「そんな器のちっさい男は願い下げだ」と余裕ぶっこいてたら、気付けば誰もいなくなっていた。焦りだした時には三十後半。そしてたいした恋愛をする相手も暇もなく、いよいよ四十路を目前に控えている。
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