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 和樹はそっぽを向いたまま「頑張れよ」とも「またな」とも言わない。嫌な空気だなと思いながらもわたしは着替えを済ませて荷物を持った。きっと話し合ったほうがいいのだろう。「ごめんね、あとで電話する」と言えば済むかもしれない。でもそんな時間はない。いきなり子どもじみた駄々をこねられて苛立っていたのもあって、言えなかった。 「恋人が傍にいて欲しい時にいないのは、やっぱ寂しいな」  その言葉が聞こえたのはドアが閉まる直前だった。  今のはなに。やっぱり駄目かってなに。寄りを戻そうと思ったけど、わたしが和樹の思い通りにならないから無理ってこと?  学生時代、わたしとの生活環境の違いに寂しさを感じたと言っていたのはつい二時間前のこと。大人になった今なら多少のすれ違いも耐えられると思ったから復縁を迫ったんじゃないの? だけど、和樹の心境を聞いたにも関わらず、わたしも仕事を優先する。せざるを得ない。ドアは完全に閉まってしまった。「話し合いたいから待っていて」と引き返すには時間が立ち過ぎた。  和樹とは、もう二度と会うことはない気がした。
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