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その夜、楓子ちゃんのマンションに帰ったら、楓子ちゃんは着替えもせずソファでぐったりと横になっていた。楓子ちゃんの前で屈んで、ブランケットを掛けてやる。
「気分はどう? 今日は午後、ずっとしんどそうだったけど」
楓子ちゃんは横になったまま、どこか泣きそうな声で、
「わたし、やっぱり若年性更年期障害なのよ……そうじゃなきゃ病気だわ……。ごめんね、こんなことになって……遠慮せず良い人がいたら、」
「なに馬鹿なこと言ってんの、冗談でも怒るよ」
「だって」
「楓子ちゃんは更年期でも病気でもありません。でも確実に今までの体とは違う」
「なにそれ、どういうこと」
そこで俺は仕事帰りにドラッグストアで買ったものを、ビニール袋から取り出した。楓子ちゃんは「えっ?」と素っ頓狂な声を出す。俺が買ったのは、妊娠検査薬である。
「生理きてる?」
「き………てなかったわ」
「検査しておいで。線が二本出たら、式の準備も急がないとだねぇ」
ニッ、と笑うと楓子ちゃんは立ち上がってすぐさまトイレに駆け込んだ。
患者の体には厳しいのに、自分のこととなると鈍感なんだから、これも医者の不養生ってやつなんだろうか。
俺はソファですっきりした気分で待ち構えていた。そのわずか数十秒後、楓子ちゃんの間抜けな叫び声が聞こえて、また笑った。
END
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