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『キツいこと言うけど、松永くんも絶対に楓子じゃないと駄目だってことはなかったと思うんだよね。楓子もでしょ? このまま結婚できるような人がいなくてダラダラ縁が続くなら寄り戻すのもアリ、くらいのもんでしょ。松永くんも四十手前になって結婚を考えられるような彼女がいなかったから、楓子と寄り戻そうとしたんじゃない?』  つまりわたしと和樹はお互いに最終手段だったが、それすらも叶わなかったということだ。これじゃただの都合のいい女、いや、満足に都合もつけられない女だ。  ひと通りストレッチをして体は柔らかくなったはずなのに、気分は全然スッキリしない。マグカップを持った遥が画面の前に落ち着いた。 『それよりさ、こないだ居酒屋で偶然会った男の人は?』 「誰それ」 『楓子と同じ職場の人でしょ? あの人も外科医? 酔い潰れた楓子を介抱してくれたじゃん』 「あー……槙田先生ね。あの人は職場の人以外の何者でもないから」 『そのわりにはすごく親切だったよね。わたしにも旦那さんと子どもがいるなら早く帰りなってタクシー呼んでくれたし、楓子が目を覚ますまで待つからってけっこう長い時間付き添って、最終的に一人で担いで家まで届けてさ。大変だったと思う』  言われてみればそうかもしれない。意識のない大人を運ぶのは力のある男性でも大変だし、自分だって家に帰って休みたかっただろうに、その時間を全部酔っ払いの女に費やしてイライラもしただろう。そういえば、鞄や家の中を見られたことばかり気にしてちゃんとお礼を言っていない気がする。それどころか突っかかってばかりで、槙田先生からすればただの逆切れだ。……そりゃあ嫌味の一つも言いたくなるかもしれない。  あー、と額に手を当てて項垂れた。恥ずかしい。鞄の中や部屋を見られたことじゃない。自分の幼稚な言動が。 『遥、俺のワイシャツどこ?』  画面の向こうで遥の旦那さんの声がして、しばらく夫婦の日常のやりとりが交わされていた。あそこに置いただのアイロンは掛けてくれたのかだの。遥の声色はなんだか冷たくて旦那さんに少し苛ついているのが伝わってくる。でも、そんなやりとりすら微笑ましくも羨ましい。わたしがそっち側に行けるのはいつのことやら。
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