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「あんまり不愉快な時はビシッと注意すればいいんじゃねぇの」  わたしの背中から負のオーラでも漂っていたのか、後ろから付いてくる槙田先生が気怠そうに言う。別に落ち込んでいるわけじゃない。乱れた心を落ち着かせるために黙っているだけだ。これしきのことでいちいち傷付いていたら身が持たない。そういうところが気が強いと言われる所以かもしれないけれど。わたしは足を止めず、溜息交じりに答えた。 「別に注意するほどのことじゃないからいいですよ。まあ、福沢さんがセクハラされるようなら注意しますけど」 「へらへらして黙ってるだけじゃ、そのうち無茶苦茶言い出す奴も出てくるぜ。そんなに自分のイメージが大事かね」  どうしてこの人はいちいち癇に触る言い方をするのだろう。足を止めて振り返ると、槙田先生は「そうだろ?」と肩をすくめた。 「そりゃあ自分を良く見せたいですよ。あの先生いい人だね、優しいねって言われたいですし」  ついでに「美人だね」も付けてくれるとなお嬉しい。 「ずっと医師として生きていくのに『あの先生、感じ悪いよね』って言われるの辛くないですか? そもそも病院って負のイメージが強いでしょう。病気とか検査とか。痛いことされるのかな、嫌だな怖いなって。そういう時に診てくれる先生まで怖い顔してたらどうです? その先生が仮に神の手を持っていたとしても、とっつきにくいと質問することもできない。医師に対してイメージが悪ければ院のイメージも悪くなる。そうなると患者はあの病院行きたくないって思うようになる。だからわたしは感じのいい先生だなって思ってもらいたいんです。ひいては院のためでもあるんですよ!」  つい熱くなって槙田先生に迫ってしまった。先生はのけ反って両手を挙げる。
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