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「でもさ、わたしは楓子が羨ましいよ。自立してて自由で。あ、これマウントとかじゃなく本気だから。結婚なんて正直疲れることばっかよ。夫と価値観が合わなきゃ喧嘩になるし、盆や年末年始の義実家への帰省も憂鬱だし」  遥は高校時代の友人で、二十六の時に結婚した。今は二児の母で専業主婦。子育て真っ只中の時は疎遠になっていたけど、子どもが大きくなって出歩けるようになってからは時々こうして飲みにいく。遥の主婦生活もなかなか大変そうだとは思う。旦那さんは仕事一筋で家事育児は全部遥。ワンオペで目が回るほど忙しいのに専業主婦という肩書きだけで世間からは軽んじられるらしいし。何より、家庭とママ社会という封鎖的な空間にいることが辛いと言っている。社会から取り残される感覚が不安だと。想像したらなんとなく気持ちは分かる。わたしだったら気が狂う。それでも羨ましいと感じてしまうのは「独りじゃない」という絶対的な安心感が彼女にはあるからだ。 「きっと結婚したらしたで大変なんだよね。でもわたしはそれを経験してないから経験してみたいっていうか」 「もっと早く行動すればよかったんじゃない?」 「だって医学部出て研修終わったのが三十手前よ。それから専門医の資格取ったり経験積むのに必死だったから、恋愛だけってわけにいかなくて。それでも傍らで婚活はしてたわよ。むしろ褒めてもらいたいくらいだわ。そんなわたしの努力なんて知らずに女医は可愛げがないとか、俺より収入高いのは嫌だとか言われてさ。あんたら何様だっての」  お見合いパーティーで医師だと言えば「センセー」とからかわれてカウンセリングが始まるし、言い寄る男がいてもハナからわたしの収入をアテにした奴らばかり。それが嫌でお見合いパーティーに行くのをやめた。 「頑張ってんだけどなァ。見た目も仕事も。選り好みしてないんだけど。頑張れば頑張るほど敬遠されんの。なんでだろ」 「自然に任せればよくない? 結婚だけが全てじゃないよ」 「せめて四十まではあがきたい」 「なんでそんなに結婚したいの?」 「なんでかねー、昔から憧れがあるんだよね。結婚とか家庭に。まあ、最終的に独りじゃなければ結婚って形に拘らなくてもいいし、もういいやって諦め入る時もあるんだけどね。たまにふとした瞬間に結婚したくなるわけよ」 「あんたの推し俳優、結婚したもんね」
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