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「な、なんですか」 「だってさぁ、鈴木さんに『綺麗な人』って言われた時の橘先生のドヤ顔思い出したら面白くて!」 「そ、そりゃ綺麗な人って言われたら誰だって嬉しいでしょ!?」 「セクハラする奴でも?」 「わたし、これでも若い頃はモテたんですよ。さんざん可愛いとか綺麗とか言われましたよ。でも年取ってくると言われなくなってきたから、たまに褒めてもらえると嬉しいんです。悪い?」 「いや素直でいいんじゃない」 「もう帰っていいですか? お疲れ様でした」  何が悲しくてこのクソ寒い中いつまでも槙田先生と喋っていなければならないのか。軽く頭を下げてエントランスから離れると、容赦ない強風に煽られた。 「足元ふらついてるよ。酔ってる?」 「風に煽られてるんです! なんで付いてくるんですか!」 「俺、家こっちだから」  病院から数メートル離れたところでふと足を止めたのは、風に乗って出汁の香りが漂ってきたからだ。夜道を照らすのは小さなうどん屋の灯かり。江戸文字で「うどん」と書かれた赤いのれんと提灯がわたしを呼んでいる。槙田先生も同じことを考えたのだろう。 「あっためてあげようか」 「語弊がある言い方やめてもらえます?」
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