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「はい、わかめうどんとかき揚げ、鍋焼きうどんとおでんの牛スジ、たまご、こんにゃくね!」  注文からわずか四分弱でカウンターにダンダンッと置かれたうどん。優しい出汁の香りが空腹を刺激する。温かい蒸気で乾燥した顔に潤いが蘇った。  槙田先生はどう見ても熱そうな鍋焼きうどんを、なんのこともなくズルズルすする。豪快な食べ方が見ていて気持ちが良いし、とても美味しそうに見えた。今度はわたしも鍋焼きうどんにしよう、と密かに心に決めてわかめうどんをすくった。  槙田先生とうどんを食べていることや隣の席に座っていることや、突っ込みたいことは色々あったが、喉越しのいいうどんを食べ進めるうちに体が温まり、体が温まると荒んだ心が落ち着き、空腹が満たされるとイライラもどこかに吹き飛んだ。 「胃腸にいいね」 「胃腸といえば、山田さん落ち着いたみたいですよ」 「山田さん」 「イレウスの」 「ああ、山本先生がほっといた人」  肘で槙田先生の腕を強く突いた。レンゲでだし汁を飲んでいた槙田先生がむせる。 「誰も聞いてないって」 「壁に耳あり障子に目あり、ですよ。たまたま誰かが聞いて尾ひれはひれ付いて院の変な噂流れたらどうするんですか」 「そっちが話振ってきたくせに。きみ、いつもそうだよね。自分から話しかけといて俺が答えると逆切れすんの」 「分かりました、もう話しかけません。どうもすみませんでしたー」  普通に会話をしようとしても結局こうなる。吹き飛んだはずのイライラはすぐに蘇って、一瞬気を許しかけたことを後悔した。
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