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「結婚できそう?」 「できそうなら今、槙田先生といませんよね」 「性格ちょっとアレだから仕方ないよね」 「そう言う槙田先生はどうなんですか!」 「俺は別に結婚したくもないし、彼女もいらないから」  槙田先生はいきなり立ち止まったかと思えば、おもむろに煙草を取り出して火を点けた。歩道橋の手すりに腕を置いて、そのまま一服始める。なるほど、誰といようと自分のペースを崩したくないタイプか。一人分の間隔を空けて槙田先生の隣に並び、同じように手すりに腕を置いた。 「福沢さんが、槙田先生のことカッコいいって言ってましたよ」 「あの新人ナースの子? 見る目あるねぇ。今度誘おうかな」 「彼氏いるみたいですけどね」 「そんなこったろうと思ったよ」  今日の槙田先生はよく笑う。  思えば居酒屋で偶然槙田先生に会うまで、槙田先生とはまともに会話をしたことがなかった。槙田先生は必要以上に誰かと関わらないけれど、わたしも槙田先生とは関わろうとしなかった。不愛想だし、やる気ないし、苦手だな、という印象が先立って無意識に避けていたのだ。山本先生に激怒している槙田先生を見て「この人怒るんだ」と呑気な驚きがあったが、わたしが見てこなかっただけで本当は色んな顔があるのかもしれない。例えば悲しそうな顔だったり、寂しそうな顔だったり、嬉しそうな顔だったり。悔しがる顔だったり。ふいにシミュレーターの前に立っていた槙田先生の背中が脳裏をよぎった。
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