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「橘先生はなんで結婚したいの?」
「好きな人と家庭を築くのって素敵じゃないですか」
「結婚はゴールじゃないよ」
「そうは言われましても、お嫁さんになるのが夢だったんです」
「お嫁さんになるのが夢だったのに、医者になったの? 結婚から遠ざかる道行っちゃって何してんの」
この、人を小馬鹿にした笑い方はやっぱり嫌いだ。大体、結婚に憧れるのに理由がいるのだろうか。
「じゃあ槙田先生は素敵な人が現れても結婚しないんですね?」
「しない。だって、もうしたことあるから」
うっかり聞き流しそうなほどアッサリ言った。
したことあるって? 結婚を? 槙田先生が?
そんなまるでディズニー行ったことあるみたいなノリでできる結婚がある?
それ以前に槙田先生と結婚する人がいるんだとか、槙田先生って恋するんだとか、色んな感情が駆け巡って最終的に出た結論が、
「ま、負けた……」
「きみは俺のことなんだと思ってんのよ」
地面に崩れ落ちたわたしの手首を掴んで起こしてくれる。
「結婚したのは三十五歳の時。離婚したのは三十九歳」
「生意気な」
「ねえ、俺の方が年上なの忘れてるよね」
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