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「……でも、いつかまたいい人が現れるかもしれないですよ」 「それからEDになっちゃったんだよ。彼女ができたところでエッチできないからさ」  立て続けに明かされる事実に、どう反応すればいいのやら。「お気の毒に」と皮肉でも慰めでもない本心を伝えたら、槙田先生はゲラゲラと笑っていた。 「ま、そういうことだから、俺は結婚も恋愛もそんないいもんじゃないって思ってる」  短くなった煙草を携帯用の灰皿に押し付けて、帰ろうかとようやく歩き出した。うどんで温まっていたはずの体はもう冷えてしまった。  槙田先生が、どうしてわたしに「絶対結婚できない」と断言したのか、分かった気がした。  ――橘先生が今できることは、裏表のない人間になることじゃない? ――  あれはもしかしたら、元奥さんへの言葉でもあったかもしれない。  優しくて素朴ないい子でありながら、他の男と関係があった槙田先生の元奥さん。  みんなにニコニコと人当たりのいい人間を演じていながら、本性はズボラで憎まれ口ばかりのわたし。愛想を振り撒いているくせに自分にだけ塩対応されたら、誰だって見下されていると不愉快になる。槙田先生にはさぞかし嫌な女に見えただろう。わたしは槙田先生の一番嫌いなタイプの人間なのだ。  それなのに槙田先生は酔い潰れたわたしを介抱したり、鈴木さんに不愉快な発言をされて困っているわたしを助けてくれた。  自分が恥ずかしくなった。もし逆の立場だったら、わたしは槙田先生を助けることができただろうか。助けてあげようと思っただろうか。……たぶん思わなかった。現にいつも「いい先生」でありたいと心掛けていながら、槙田先生への嫌悪から鈴木さんの手術を受けたくないと思ったのだから。  歩道橋を下りたところで槙田先生が振り返る。 「あのさ、結婚はいいもんじゃないって言ったけど、それは俺の話であって橘先生の願望を否定してるわけじゃないからね」 「分かってます」 「あそ。あとでいらんこと言われたとか文句言われたくないからさ」  ちょっと見る目が変わったと思った矢先にこれだ。嫌な男であることに変わりはない。だけど、
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