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「……ありがとうございました……」
「いえいえ、こちらこそご清聴ありがとうございました」
ペコリとお辞儀をする。
「じゃなくて、今日、鈴木さんに注意して下さってありがとうございました。やっぱり、ああいうの嫌だったから、代弁して下さって助かりました。あと、……このあいだ居酒屋でのことも……ご迷惑おかけしてすみませんでした」
「なに、俺の話聞いて同情しちゃった?」
「いや、ちゃんと言わないとって本当はずっと思ってましたよ。でも槙田先生といるとイラッとすること多くて、言いそびれてたんですよね」
またそんな可愛げのないことを言ってしまう。
「……と、とにかく感謝はしてます。逆切れしてごめんなさい」
頭を下げたものの、返事がない。今更言うなよと呆れているかもしれない。ゆっくり顔を上げると、思いがけず微笑している槙田先生を見た。
「やっぱり素直なのがいいよ」
それだけ返されて、槙田先生はわたしとは反対の方向へ歩き出した。槙田先生はいつも唐突に話が終わる。だからわたしは少し取り残されてしまうのだ。暫く背中を見送っていたら槙田先生はいきなり振り返り、
「俺もいまむらの裏起毛パンツ愛用してんの。あれ、あったかいよね」
心底どうでもいい共感を残して、今度こそ解散した。街灯が点々と灯るだけの暗い街中に佇む。「送ろうか」くらい言えよ。結果的になかなか悪くない時間だったけれど。
うどんくらいなら、また一緒に食べてもいいかな。今度は鍋焼きうどんに、こんにゃくとたまごを添えて。
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