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 突き抜けるような晴天の冬晴れ。引きこもるには勿体ないほどの穏やかな休日に、朝から何ヶ月かぶりにまともな掃除をした。  想像以上の埃に途中咳込んだり鼻をかみながら溜め込んだ大量のごみを捨て、ついでに要らなくなった服や靴、食器も整理して、掃除機、雑巾をかけたあとはシーツとカーテンを洗う。昼過ぎにようやく終えて、ごみ袋と真っ黒になった雑巾を見て、こんなに汚れを溜め込んでいたのかと自分の不潔さにぞっとした。  休憩がてらベッドに腰を下ろしてSNSを開く。アカウントを作るだけ作ってほとんど投稿したことがないSNS。いや、したことがないことはない。昔はしていた。流行り出した頃に調子に乗って写真を載せたり、ポエムみたいな文章を綴ったり。思い出したら顔から火が出るほど恥ずかしい黒歴史だけど。今でもこまめに投稿を続けてちょっとしたインフルエンサーになっているフォロワーもいればいつの間にか退会したフォロワーもいるが、大抵は気が向いた時にちらほらと日常の投稿をするだけ。そしてわたしはその投稿を見る専門。いつからやめたっけ。たぶん、周りと生活環境が合わなくなってから。結婚出産報告がピークの頃から見るのがしんどくなって離れたのだと思う。毎日見ていたのが週一になり、月一になり、そして今日、数ヵ月ぶりに見る。  家族と旅行に行った、子どもが誕生日を迎えた、美味しいものを食べた、開業した。ただの近況報告の中に承認欲求とマウントを垣間見る度に嫌な気持ちになっていたものだが、最近それを感じなくなってきた。  何を思ってか和樹のアカウントを開いた。ヴィンテージ風に加工した写真が数枚並んでいる。文章は一切ない。飲みかけのコーヒーとか、読んだ本とか、バイクとか趣味の写真ばかり。和樹もこういうのあんまり得意じゃないよね、と思った直後に女の子の手が写り込んだ写真を見た。ジェルネイルの細い指が持っているカップを写したもの。日付は二週間前。わたしと最後に会った日の後に投稿されたものだ。  それを見た瞬間に、完全にもう終わったなと思った。あの夜から一度も連絡はないけれど、本当は少し期待していた。またポロッと連絡が来るんじゃないかと。でも、おそらく一生ない。  なんだ、いたんじゃん。わたしは最終候補の中でも天秤にかけられていたわけだ。なんて惨めな話。悔しくはない。ただガッカリした。見る目のない自分に。  気を取り直してスマホを閉じる。部屋を綺麗にした自分のために目一杯お洒落をして出かけることにする。美味しいものを食べて、スペースができたクローゼットに入れる新しい服を買って、お気に入りのカフェで本を読む。 リサイクルショップで売った服と靴はブランドものが多かったからか、なかなか高値で売れた。それが今日一番のイイネ。
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