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「分かりました。いいですよ」  そういうことなら納得できる。満更でもない気持ちで引き受けた。 「どんな患者ですか?」 「五十五歳の男の人。肥満型で糖尿病。リンパ節にも二、三個転移してるんじゃないかな。PPGは難しそう。俺の予想はステージⅡb」  胃がんは場所や大きさによって手術法が変わる。胃の上部にあれば入口部分を、下部にあれば出口部分を切り取る。進行がんや範囲によっては全摘。そしてどれも切ったあとは腸や食道を繋げる再建をしなければならない。けっこう大掛りな手術だ。  CTもエコーもまだ撮っていないはずなのに、なぜ槙田先生は内視鏡だけで自信満々に予想できるのか。大学病院では手術に入りまくっていたと言っていたから、経験からくるものなのか。鈴木さんの時もそうだった。うっかり見逃しや誤診されてもおかしくない病変をがんと確信していた。やっぱりこの人、本当はそれなりに腕のいい医師なんじゃないか。個人的に槙田先生自体はいけ好かないけど、医師としては貴重な人材を埋もれさせたままにしておくのは惜しい気がした。  槙田先生が「聞いてる?」と目の前で手をヒラヒラさせる。 「真剣な顔で考え込んで、熱心だねぇ」 「わたしはいつも仕事熱心ですけど」 「だって、どんなに忙しくてもニコニコしてるじゃん。今はここに皺寄ってるよ」  眉間を擦りながら言った。 「……実は、槙田先生とうどん食べに行った夜、先生の話聞いてから、考えたんですよね」 「何を」  たまごが槙田先生の大きな口の中に吸い込まれる。黄身が喉に詰まらないのだろうか。
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