547人が本棚に入れています
本棚に追加
/201ページ
始業時間になり、さっそく遠野くんに仕事を任せた。カルテに記録してある入院患者の体温を確認、午前中は病棟回診。手術をした患者の創の具合を見て、抜糸やドレーンを抜いたり縫合したりする。午後は手術に助手として入ってもらうことになっている。
さて、遠野くんは先に手術室に入って準備をしているのか。少し意地悪を含んだ期待をしながら手術室に入ったら、既に準備を終えてCT画像をチェックしていた。
「橘先生、よろしくお願いします」
「早いわね。もしかして予習してた?」
「はい、癒着性腸閉塞の手術ですよね」
まったく緊張することも物怖じすることもない、いっそ楽しそうにも見える。こちらが気後れするくらいのやる気。三年目でこの自信はたいしたものだ。
実際、遠野くんはセンスが良かった。術中に取って欲しい器具の名前を言うと間違わずに渡してくれるし、カメラを持つ手もブレない。モニターを見ながら血管の名称を訊ねると、ふいの抜き打ちテストにも難なく答える。
「ローテートでけっこうオペやった?」
「一ヵ月半で五例ほど。少ないですかね」
「充分よ。それだけ任せてもらえたなんてすごいじゃない。明日のアッペやる?」
「いいんですか!? ぜひやらせて下さい!」
喜び方も可愛いし、仕事に積極的なのは好感度高い。看護師も麻酔科医も遠野くんを気に入っているのかニコニコしている。ただ、気味悪いくらいの人懐こさと感じの良さが、まるで自分を見ているようだった。
最初のコメントを投稿しよう!