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 *** 「諏訪さん、おはようございます。体調はいかがですか?」  手術を翌日に控えた諏訪さんの病室を訪れると、諏訪さんはベッドで本を読んでいた。ピンクのふわふわのブランケットを膝に掛け、ベッドにはバーバリーのバスタオルを敷き、デスクにはスマホ、ファッション誌が置かれていて入院ライフを満喫している。花瓶に花を活けていた諏訪さんのお母さんが、わたしに気付くと深々と頭を下げた。 「先生、お世話になります。どうぞ娘をよろしくお願いいたします」 「術前化学療法が合っていたようで良かったです。明日の手術、頑張りましょうね」 「先生、この間、診察の時に話した雑誌。先生が読んでるって言ってたから買ってみたの」  二週間前の外来診察で話した些細なことを覚えてくれていたのだ。諏訪さんは持っている雑誌の表紙をわたしに見せてくれる。わたしが毎月定期購読しているファッション誌の最新号だった。 「わたしもそれ、まだ読んでないのよ」 「手術終わったら、先生に貸してあげる。先生に似合いそうな服、選んであげるね」  諏訪さんはお洒落をすることが好きだ。ピンクや水色のパステルカラーのセーターとか、チェックのスカートとかガーリーな服を着ている。コンサバ系を好むわたしでも可愛いと思うくらい、諏訪さんはセンスがいい。抗がん剤の治療中なんて身だしなみに気を遣う余裕などないだろうに、病院が唯一出掛けられる場所だからと毎回お洒落をして来るのだ。わたしはそんな彼女がいじらしくて、それだけに重い病気を患っていることが残念で、どうにか励ましてあげられたらと診察の度に洋服やアクセサリーの話をしてきた。今では諏訪さんもわたしに気を許してくれていて、まるで友達のように話しかけてくれる。   もっとも、隣にいる遠野くんは理解できないのか不思議そうな顔をしているが。
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