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 階段の踊り場で窓から日光を浴びながら深呼吸をし、ふと窓ガラスに映った自分の姿を確認する。アルコールは残っていないけど、さすがに肌の調子がすこぶる悪い。化粧はのらないし、目の下にはクマが。……ああ、またシミが増えてる。レーザー当てないと。太陽の光は残酷なほど現実の自分を照らす。どの角度が綺麗に見えるかポージングしていたら、窓ガラス越しに冷たい視線を受けた。 「まっ、槙田先生!?」  いつの間にいたのか、槙田先生は珍獣を見るような目でわたしを見ている。そして苦笑しながら、 「女の人は大変だね」  と、皮肉を言うのである。 「昨日、かなり酔ってたみたいだけど、ちゃんと起きられたんだ」  そういえば昨夜、居酒屋の個室を出たところで槙田先生と出くわした。自暴自棄になって「誰か結婚してくれ」みたいなことを叫んだのを聞かれた。院内では品行方正を守っているこのわたしが、そんなはしたない姿を職場の人間に見られたことがショックすぎてぶっ倒れたのだった。そのあとは記憶がない。目が覚めた時には自分の部屋だった。服装は昨日のままだったから「あーあのまま寝ちゃったのか」と軽く考えて普通にシャワーして普通に出勤した。わたしはどうやって家に帰ったんだっけ。 「あ、あの……わたし、ちゃんと歩いてましたか?」  槙田先生は眠たげな目を大きくして「知らないの?」と素っ頓狂に言った。 「橘先生、いきなり倒れたから店内大騒ぎでさ。お店の人やお友達がパニックになって救急車呼ぶとか言ってたから、まあまあ大丈夫だよって俺が止めたの。これでも俺も医者だからねー。病気かただの酔っ払いかなんてすぐ分かる」  なんてエラそうかつ嫌な言い方だ。 「店で少し寝かせてたけど全然起きないから、家まで送るかーってなって。お友達は旦那さんとお子さんがいるっていうから帰ってもらって、俺がきみを家まで送ったってわけよ」 「家まで……? 槙田先生、わたしの家ご存知なんですか?」 「知るわけないでしょ。お友達から住所聞いたんだよ。鍵は鞄の中探らせてもらったけど」 「鞄!?鍵!?えっ、ちょ、まさか家の中まで入ったんですか!?」 「そりゃ女性の鞄漁ったり、勝手に家の中入るのもどうかと思ったよ。でも酒入ってるのに真冬の夜に外に置いておけないでしょうよ」
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