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「わたしはもう諦めかけてます。夫婦喧嘩した友達が離婚したいって泣いてるのとか、槙田先生が結婚はそんないいもんじゃないって遠い目してるの見てたら、自分は夢を見過ぎてるんだろうなって痛感して。実際いい人もいないし、元彼の時みたいに虚しくなりたくないので」 「……なんか、夢、壊してごめんね」  結婚に対して諦めが入っているのは本心だ。ただ、やっぱり孤独は嫌だという思いはあって。些細な日常を報告しあったり、ご飯を食べて美味しいねって言い合えるような人がいればいいとは思う。それが絶対恋人じゃないと駄目だと言うわけじゃないけれど。 「諦めるのは勿体なくない? 橘先生、いい女なのに」  絶対結婚できないと断言したのはどの口だ。 「少し前まではそれこそ遠野くんみたいなイメージあったけど、最近はわりと感情出してくれるよね。素直な橘先生はいいと思うよ」  槙田先生の眠そうな喋り方はいつも捉えどころがなくて分かりにくいが、おそらく本心で言ってくれている。深夜の心細い時に親切にしてくれたせいか、たったそれだけの台詞が妙に沁みた。 「そ、そんなこと言ってまたなんか押し付けようとしてるんじゃないでしょうね」 「あー、ついさっき素直なのがいいって言ったばっかりなのに。天邪鬼だな」  そうこうしているうちにマンションの前に着いた。出会い頭で家まで送ってもらっておいてサッサと帰すのも忍びなく、「お茶でも飲みますか」と聞いてみた。半分社交辞令だが、もし飲むと言っても別にかまわない、くらいの気持ちだった。だが、槙田先生は呆れた顔をして、 「普通、深夜に男を家に上げる? いくら俺が恋しかったとはいえ」 「いや、待って下さい。深い意味はないです。お礼のつもりで。そして恋しかったわけじゃないですから」 「俺が送り狼だったらどうすんの」 「槙田先生は大丈夫って分かってるので」 「それはアレかな。俺がEDだからってこと?」 「違いますッ」
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