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「技術も経験もねぇクソガキが医師免許にあぐらかいてイキがってんじゃねぇぞ。親が心外か脳外か知んないけど、お前みたいに誰からも学ぼうとしない勘違い野郎に他人の命を預かる資格はない」 「……す、すみません……」  堂々とした威厳で遠野くんを叱責する姿にスカッとした。密かにガッツポーズをしたりして。 「プライベートの電話をするなとは言わないけど、場所を考えな。俺は手術ができないから禄でなしって言われるのは仕方がない。でも川上先生のオペは切り口が綺麗だし、山本先生は術中の出血量を抑えられるし、橘先生の結紮は神業だよ。お前はそういう先生方のオペの何を見てたの。スピード? 違うだろ。これから橘先生のオペに入ったら何やってるかちゃんと見てろ」 「は、はい。……申し訳ありませんでした」 「あと、橘先生は可愛いよ」  遠野くんと重なって思わず「は!?」と声を上げてしまった。遠野くんの「あれで若けりゃ可愛げもあったかもしれない」という言葉に対しての返答なのかもしれないが、それにしても脈絡なさすぎだろう。もちろん遠野くんも不可解そうに小首を傾げている。傾げるな。  一方的に伝えてスッキリしたらしい槙田先生は踵を返し、柱の陰に隠れているわたしに微笑を残して行った。  待て。待て待て。ちょっとキュンとしている場合じゃない。普段絶対口にしないような人からお慰めで「可愛い」と言われて驚いただけ。本気なわけがない。それでも昨夜の冷やかしのキス未遂を思い出してしまって、わたしは槙田先生に物申すどころか悶え苦しむのだった。
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