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「吻合部分が多い術式なのに、縫い目は全部綺麗だし……どうやったらあんなに上手に縫合ができるんですか」 「ひたすら練習するしかないのよ。今はね、吻合も器械でできるし、手術自体がダビンチやヒノトリみたいなロボットを扱う時代でしょ。でもどんなに便利なものがあってもそれを扱えるだけの技術がないと話にならないの。いつも予定通りにオペができるならそれが一番いいけど、患者が高齢者だと血管が脆くて出血しやすかったり、開腹経験があると癒着してる可能性があるわよね。だから早く終わることもあれば時間がかかることもある。そんな時に基礎的なこともできないと余計に時間がかかって患者に負担がかかる。早く正確に終わらせたいなら、まずは基礎を磨くことが大事」  遠野くんは珍しく素直な態度でわたしの話を聞いている。はい、はい、と頷きながら。 「それから諏訪さんみたいに、しっかり検査をしても開けてみて分かる転移もあるでしょ。そんな時、患者との信頼関係がないといくらこっちに非がないとはいえ、『充分診てくれなかった』って言われかねない。色んな状況をどれだけ予測できるか、患者に信頼してもらえるか、そのために大事なのが患者の話を聞くことなの」 「すみませんでした……。諏訪さんのことも……勝手に一人前になった気持ちで自分勝手に色々やって。心を入れ替えて頑張ります」 「うん、遠野先生はせっかくセンスがあるんだから。頑張ってね」  キマッた……! 手術は予定通り、遠野くんにも一矢報いて、わたしは鼻高々と手術室を後にした。思惑通りすっかり自戒した遠野くんは、わたしのあとを追いかけてくる。
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