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「この病院の消化器外科の名医って、橘先生のことだったんですね。僕、やっぱり橘先生から色々教わりたいです!」  変わり身の早さに呆れるというか、可愛らしいというか、鬱陶しいというか。はいはい、と適当に相槌を打ってあしらった。エレベーターが到着して扉が開くと、槙田先生が立っていた。 「あー、お疲れ。終わったんだね」 「槙田先生、橘先生のオペは素晴らしかったです」 「そうでしょ? うちのエースだから。ねえ、橘先生」  またそんな心にもないことを。からかった眼で見下ろしてくるのがムカつく。ムカつくのに槙田先生の顔を見ただけで、一瞬で自分の顔が熱くなった。誤魔化しようがないくらい動揺してしまって、わたしはエレベーターには乗らず咄嗟に階段のほうへ逃げた。顔が熱い、赤い、無意味な動悸。中学生じゃあるまいし。これじゃあ、まるで、  ――ある日突然、考えてもなかった人に落ちるのが恋でしょ? ――  冗談じゃない!
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