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「ハラミとヒレ、タン塩、カルビでーす」
胃腸に負担をかけてはいけないと無意識に自制するのか、アラフォーになると焼肉もアッサリめを選びたくなる。槙田先生は追加でロースを注文したので、そんなことはないようだが。
「どれから焼く? 舌? アバラ? 背中? 横隔膜?」
「話があるって、本気で肉について語るんですか?」
「そうだよ。ちゃんと部位の名前を言うと命食べてる感出るよね。あ、大腸も頼もう」
相変わらず掴みどころのない表情で喋る。改まって「話がある」なんて言うから、わたしは終業時間までそわそわしていたというのに。
「ってのは冗談で、これ、諏訪さんから預かってきた」
どこからともなく封筒を取り出した。薄いピンクの便せん。形が崩れてやたら皺が寄っているのが気になる。
「ごめん、ケツポケット入れてたからぐちゃぐちゃになっちゃった」
この丸いフォルムは槙田先生の尻の形らしい。わたしは眉間を寄せながら訊ねた。
「どうして諏訪さんからわたしに?」
「諏訪さんの往診に行ったんだよ。橘先生に渡して欲しいって言われて。少し痩せたけど、まだ元気だよ、彼女」
諏訪さんと最後に会話をしたのは手術の前日。転移があったと知った彼女はショックを受けて塞ぎこんでいるとお兄さんは言っていた。わたしは手紙の中を見るのが怖かった。恨み辛みが書かれていたらどうしよう。治してくれなかったと責められていたらどうしよう。早く読みなよ、と槙田先生に促されて、恐る恐る手紙を広げた。
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