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橘先生
何もお礼を言わないまま退院を決めてしまい、申し訳ございませんでした。また、わたしが寝ているあいだ兄が先生に失礼なことを申したようで、本当にごめんなさい。
転移があったこと、手術ができなかったことを担当の先生から聞いた時はショックでしたが、不思議と受け入れるのに時間はかかりませんでした。それは橘先生が今まで親身になって下さったから、橘先生を信頼しての結果だから納得して受け入れることができたのだと思います。化学療法を続けるかどうか家族と相談しましたが、残りの時間は自分の好きな服を着て、自分の好きなところに行って、目一杯楽しむことに決めました。
今、前向きな気持ちでいられるのは橘先生のおかげです。短い間でしたがお世話になりました。橘先生が主治医でよかったです。本当にありがとうございました。
追伸 先生に似合う服を見つけたよ! 生まれ変わったら先生みたいな素敵な人になりたいな!
諏訪かすみ
手紙と一緒に入っていたのは、ファッション雑誌の切り抜きだった。わたしは諏訪さんに自分が普段どんな服を着ているのかは話したことはない。けれども諏訪さんが選んだ服はスリムで上品な、グレーのワンピース。わたし好みの服だった。
――わたし、なつきちゃんみたいになりたいの! ――
「……あ」
唐突に呼び起こされた、はるか昔の記憶。一度断片を思い出すと引き出しから溢れるように蘇った。
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