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 そうだ、思い出した。小さい頃、近所に住んでいた「なつきちゃん」という女性。顔はもう覚えていないけど、若くて綺麗なお姉さんで、わたしと歳の近い子どもがいた。  いつもくれる手作りのお菓子は美味しくて、優しくて、夫婦仲も良かった。仕事もしていて「なんでもできる人」だと尊敬していた。幸せそうな「なつきちゃん」家族の姿に憧れていた。わたしは、「なつきちゃん」みたいになりたかったのだ。  明るくて笑顔が可愛くてなんでもできる「なつきちゃん」になれば、幸せになれるんだと。なつきちゃんは医師ではなかったが、なつきちゃんになるには仕事をしなければならない。それならお父さんと同じ医師を目指そう。お腹が弱かったなつきちゃんの子どものために、お腹を治す人になろう。なつきちゃんになるには結婚しなければならない。だから自分を磨いて素敵な人を見つけよう。  本当に子どもが考える単純な思考だが、それがきっかけなのだ。  結局「なつきちゃん」にはなれなかったけど、諏訪さんの手紙を読んでそれを思い出すことができた。――嬉しい。諏訪さんがわたしを最後まで信頼してくれていたのが分かって嬉しい。わたしが医師になったきっかけや結婚にこだわる理由を思い出すことができて嬉しい。わたしは手紙を鞄にしまうと、槙田先生に向き直った。
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