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「あのあと考えたんだけど、橘先生の部屋、汚いじゃん。あの部屋に俺を呼ぼうとしたのかと思うとなかなかの度胸だなって……そりゃ安心して誘うわなって……」 「あれから大掃除しましたよ! 今、すっごい部屋綺麗ですから! 維持もしてます!」 「へー」と信じていない様子で、届いたロースとシマチョウを網の上に並べる。ヒレを口に放り込む姿が軽快で美味しそうだ。 「槙田先生に馬鹿にされて悔しかったから断捨離もして、下着だって新しいのに……」  これじゃまるで槙田先生のために部屋を掃除して下着を新調したから誘ったと言っているようなものだ。案の定、 「え? 俺のため?」 「違います」 「でも俺に言われたからやったんでしょ? なんだかんだ考えてくれてるんだから。けっこう俺のこと好きでしょ」  耳まで一気に熱くなる。髪を下ろしておいてよかった。タートルネックでよかった。槙田先生は肉の焼き加減に注視しているから、わたしが静かにうろたえていることに気付いていない。そもそも何気ない冷やかしにこんなに動揺するわたしがおかしい。図星を突かれたみたいな……。図星……図星なのか? もしかして、わたしは槙田先生のことが、 「否定しないの?」 「え!?」 「いつもなら、何言ってるんですかって怒るところだから」 「あ、当たり前ですよ! 呆れて何も言えなかっただけです」 「そうだよね。本気になられても困るし」  笑いながら言った槙田先生の言葉がぐっさり胸に刺さった。ロースの脂が網に滴り落ちて、ジュッと一瞬だけ炎が上がる。
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