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『楓子はどう? 毎日忙しい?』 「忙しかったけど、今は落ち着いてる」 『同じ職場の外科医の人、あれから何もないの?』  遥が頬杖をついて画面に顔を近付けてくる。いくつになってもこの手の話は聞きたいものだ。  遥は槙田先生に会ったことはあるが、人となりは知らない。わたしはまず彼がどんな人でどんなポジションなのかを説明し、数々の暴言にどれだけムカついたかも、けれども仕事では助けてくれることも、今のところ槙田先生がわたしをどう思っているかも、ざっくり話した。キスをされそうになったエピソードは「キャー!」なんて他人事のように(遥にとっては他人事だが)面白がられ、そして焼肉店での話に至る。 「誰も好きだなんて言ってないし、むしろ否定すらしたのに好きになられても困るとかさ。馬鹿じゃないのって話じゃない? だからアンタみたいな男は好きにならないって言って帰ったの」 『槙田先生はなんて?』 「別に何も……」  遥は考える暇もなくズバリ言った。 『もう好きだって認めたら?』 マグカップにつけた口の端からコーヒーが吹き出た。 『少なくとも楓子は好きでしょ』 「なんでそうなるのよ」 『第一印象悪くてもさ、それだけ助けてくれたり親身に話聞いてくれたり、生意気な後輩から庇ってくれて、挙句可愛いとかキスとかされたら』 「キスは未遂」 『そりゃ好きになるよ。好きになったところで本気になるなって言われたから怒ったんでしょ?』  誘導尋問のようだが、否定するところがないということは、そうなのかもしれない。しかしわたしも認めたくないので呻るしかなかった。 『槙田先生もさ、焼肉なんて忘れたフリしててもよかったし、仕事の話だって職場でできることじゃない。それなのにわざわざ誘ったんだから、二人になりたかったのよ。冗談でも好きでもない相手に顔なんか近付ける?』
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