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 人通りの少ない階段の踊り場まで連れてこられたかと思えば、いきなり一万円札を差し出された。 「このあいだ、投げつけたでしょ。ほとんど俺が一人で食ったから、これ返すよ」 「いえ、いいです。最初に連れてけって言ったの、わたしですし」 「人の金で食いたくないからさ」  わたしは頑なに受け取らなかった。受け取ったらもう槙田先生とは食べに行くことがなくなるような気がしたからだ。 「……じゃあ、それでまた別のとこ行きましょ。今度はスイーツがいいです」  もちろんスイーツなんて平日の夜に食べに行くものじゃない。意図を汲み取ってくれるか試してみたが、槙田先生はわたしの白衣のポケットに一万円札を突っ込んだ。 「遠野くんと行けば?」 「なんで遠野くん?」 「随分、仲良くなったみたいだから。顔、近付けて話してたじゃん」 「大きな声で話す内容じゃなかったので」 「内緒話するくらい仲良いってことでしょ」 「言っときますけど、わたし遠野くんとどうこうなるつもりないですからね」 「……そのわりに近いよね」 「え!? なんて!?」 「距離が! 近いって言ったんだよ!」  
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