11.ずっとあなたの側で

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「……翔さん」 「ん?」 「そんなに、見ないでください」 「悪い、嬉しくて」 指の長い綺麗な手で顔を覆った翔さん。 そのくすぐったい反応に私は更に耐えられなくなり、肩を小さくして俯くしか出来ない。 これを着てきたということは『覚悟』の証。今夜は帰らなくてもいいという意志表示。翔さんのものになるという精一杯の告白。 これ以上耐えられなくてメニューに手を伸ばそうとすると、翔さんに声を掛けられる。 「あすか」 「……はい」 「似合ってる。それにして正解だった」 「ありがとうございます」 その後、自分でリクエストしたはずのスープパスタの味は全くわからなかった。 レストランを出た後も同じ敷地内にあるショッピングモールでいくつかショップを見て回り、先週翔さんの家に私のものを置いていいと言ってくれたので、一緒にコーヒーを飲めるようにお揃いのマグカップを買って貰った。 「少しずつ俺の家にあすかの物が増えてくのいいな。他にも買うか」 「他?」 「お前家でアレ着てないの? もこもこのパジャマみたいなやつ」 「え? まぁ、着てますけど」 「じゃあ俺の家に置いとく用も買おう」 家でくつろぐ時のルームウエアを翔さんの家で着ている自分を想像して真っ赤になる。 だって、それって……。 「あすか?」 「ひぇっ?」 「なんつー声出してんだよ」 「や、別に……」 「あぁ。なんか想像しちゃった?」 意地悪な顔でニヤリと笑う翔さん。 こういうとこ! こういうところが凄く嫌い! 「バカ!」 今までの週末のようにデートを楽しむはずが、時間が経つにつれ緊張で落ち着かなくなる。 そこにこんな意地の悪いからかわれ方をされれば、もう心臓がもたない。 翔さんなんて置いて先に行こうと一人すたすた歩いていくと、あっさりコンパスの差で追いつかれ手を取られる。 「ほら、買いに行こう」 指と指を絡ませて繋がれた手に、心臓がバクバクとうるさいくらい騒ぎ出す。 上目遣いにちらりと翔さんを睨んだのに「ん?」と優しい眼差しで私を見下ろしてくる。 こういうところ。こういう急に恋人仕様に甘くなるところがドキドキして困るのに……嫌じゃない。 結局、自分の家で着ているルームウエアよりも可愛らしいうさぎ耳付きのもこもこジップパーカーと、同じもこもこのショートパンツ、インナーのカップ付きキャミソール、さらにもこもこの靴下の一式を翔さんの家に置いておくように買ってもらってしまった。 こんな格好で翔さんの前に出られないって店員さんに見えないように何度も首を振ったのに、翔さんは「うさぎの耳付いてるパーカー初めて見た…」と静かに興奮して譲らない。 これも翔さんがお会計して、トイレに行ってくると店を出た背中を見送りながら、服を包む店員さんに「素敵な彼氏さんですね」と言われた。 正直になっていいのなら「そうなんです!でも経験値が違いすぎてもうどうしたらいいのかわからないんです!」と泣きついて相談したいくらいだったけど、初対面の店員さんに何と返していいのかわからずに曖昧に微笑むしか出来なかった。 * * * 「本当に良かったのか?」 翔さんのマンションの寝室。薄暗いベッドの上。確認してくる翔さんに小さく頷いた。 「翔さんの部屋がいい、です」 デートの帰り、買い物をしていたビルの近くのホテルに部屋を取ろうと言ってくれた。 きっと初めての私のことを考えて色々気を使ってくれているのだとわかってるけど、私は初めて泊まる高級ホテルよりも、何度か訪れている翔さんの部屋がいいと伝えた。 「そうか」 肩が触れるほど近くに座る翔さんが、俯く私の顎をそっと上げさせ視線を絡める。 綺麗な瞳の奥が揺れた。経験のない私でも今彼が何を欲しているのかがわかる。 コクンと小さく喉をならすと、ゆっくりと近付いてきた翔さんが音もなく軽いキスを落とした。 そのままぎゅっと抱き締められると、自分でもガチガチに身体に力が入っているのがわかる。 「はは、緊張してんの?」 「……すみませんね、慣れてなくて」 「バカ言うな。慣れててたまるか」 「でも、翔さんは慣れてる」 社内、社外問わずにとんでもなくモテると噂の翔さん。一緒に歩いていると物凄い数の視線を感じる。
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