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生きとし生けるものにくっ付いた、『眼球』というアイテムは恐ろしいぐらいに高性能だ。物の色や形は勿論、表情の機微や風流な景色を堪能するのに、そのレンズは必要不可欠と言っても過言ではない。
しかしながら、しかしながら、だ。
その瞳孔があるお陰で我々は惑い、苦しみ、時に争いを起こす──。コインに表裏があるように、長所と短所が必ず隣り合わせになるこの世界の摂理は、こんな当たり前の事柄ですら取り逃がすことを許さない。
僕はこの極彩色の世界が大嫌いだ。
酷く煌びやかで傲慢なソレは、今日もスルリと懐に忍び込んで僕を痛めつける。誰かの目を気にして、淡々と過ぎる社会の片隅で誰彼に憚りながら息をしなくてはいけないのも全てこの忌々しい視覚のせいならば、一生分の恨み辛み妬み嫉みを込めてお別れし
てしまおう──。
工具箱から取り出したスポイト状の容器を開けた僕は、鼻を刺すような刺激臭に眉根を寄せる。そのまま少し粘着質な液体を尖りの先端に溢れさせ、湿り気を帯びた瞳を自らの指できつく押し開いて天井を眺めた。目薬みたく揺れる雫にどれだけ手が震えても、
僕の決意が揺らぐ事は無い。
──さようなら、僕の身勝手な世界。
ポタリ……ポタリ……と滑り落ちては燃えるように熱い目をぐっと絞った僕の側に、もう二度と見ることもないであろう薬品が転げ落ちる。
『瞬間接着剤』と書かれたボトルがコロコロ……と音を立てて転がり、『速乾』という皮肉な売り文句と声を揃えて美しい世界を捨てた僕を嘲笑っているような気がした。
─fin─
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