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世界史の授業はどうも苦手だ。
先生の話が頭に入ってこなくて、信子は窓の外に目をやった。
体育の授業なのか、校庭で大翔がサッカーをしていた。
試しに手を振ってみたが、当然気づくわけがない。
顔を戻して、教科書をパラパラとめくってみた。
「あ……」
通り過ぎたページに気になる写真があった。
ページを戻して、一ページづつゆっくりとめくった。
「おじいちゃん……」
つい、心の声を口にしてしまい、口元を手で隠す。
インドの指導者ガンジー。
おじいちゃんはガンジーに似てたんだ。
だから、チャイのおばあさんは、おじいちゃんと仲良くしたんだ。
そう思うと可笑しくて、肩を小刻みに震わせて笑いをこらえた。
そんなおじいちゃんを、信子は愛おしいと思った。
そのとき、教室のカーテンが春風でゆれた。
校庭の桜も白い風にそよいでる。
そうだ、帰りにヒヤシンスを買って帰ろう。
今が咲きごろだったはずだ。
おじいちゃんのおかげで、ヒヤシンスが好きになった。
でも、名前はやっぱり、亜弥がよかったよ。
信子は澄んだ空のどこかにいるおじいちゃんに、口をとがらせた。
— おしまい —
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