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おじいちゃんは、松ぼっくり公園の向こうに住んでいた。
松ぼっくり公園は、歩きだと一周二十分くらいの、まあまあ広い公園だ。
外周はランニングコースで、敷地のなかには、野球場とサッカー場一面、テニスコート二面、低層マンションが四棟あり、もちろん周囲は高い樹々におおわれている、都内では貴重な憩いの場所だ。
おじいちゃんの見た目を、信子は、宗教の教祖みたいだと思っていた。
宗教といっても、悪い宗教じゃなくていい宗教だ。
痩せていて、頭はつるっぱげで、後頭部から耳の上にかけて、春の雪くらいの申し訳ていどに白髪がほんのり残っていた。
笑うと目尻に皺が何本も寄って、頬骨がつるっと浮き出る感じが、いい宗教の教祖みたいだなと思っていた。誰かに似てるよなと思っていたが、思い出せなかった。
公園の西側の一軒家で一人暮らしをしていたが、八十九歳で亡くなった。
ご想像のとおり寿命で老衰で亡くなったので、大往生だ。
そして、信子の家で、おじいちゃんが飼っていた犬を一匹、ひきとることになった。
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