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信子はおじいちゃん子だった。中学生までは。
中学校が終わると、友達の家で遊んで帰ることもあったが、おじいちゃんの家にも、よく遊びに行っていた。
小さいころは、おはじきとか竹とんぼとか、昭和の遊びを教えてもらった記憶がある。
記憶があるというか、机の引き出しの小物入れには、なぜかまだ、マーブル色のおはじきが残っていて、勉強に飽きたら、いまだにそれで遊んだりしている。
おばあちゃんは、ずいぶん前に亡くなっていて、小学校低学年のときに、お葬式に出たことをうっすら覚えている。
おじいちゃんは他人の世話になるのが嫌な人で、これは母から聞いたのだが、二世帯住宅の提案を断って、ずっと一人で生活をしていた。
寂しくないのかなと思うやさしい気持ちと、ときどきくれるお小遣い目当てで、信子は放課後、おじいちゃんの家に寄って帰っていたのだが、ある日突然、一匹の柴犬が家族になっていた。近所の人にもらったらしい。
名前は、シンバだ。
おじいちゃんが亡くなったので、そのシンバを、信子の家で飼うことになった。
当然シンバは、信子に一番なついているから、家族の誰よりも、信子に一番しっぽを振った。ちぎれて飛んでいきそうな勢いで振った。
信子も犬は嫌いじゃないので、可愛いと思う反面、ゆううつなことがあった。
朝夕の散歩だ。
誰が散歩を担当するのか、家族でひともんちゃくあったが
「シンバはノブちゃんが一番うれしいわよ」
と、尻尾の振り方で決まってしまった。
夕方の散歩は、できる人が行くことで決着した。
シンバが家に来た日の翌朝、さっそく顔をなめられて目が覚めた。
泥のように眠っていたので、朦朧としながらスマホを見ると、まだ六時三十分だった。
それ以来、朝の七時ころから三十分、シンバと松ぼっくり公園を散歩することが日課になった。
女子高生の信子にとって、六時半起きは非常に辛かった。
というのは、彼氏の大翔と、深夜まで、ときには明け方まで、電話をしたりしているからだ。
大翔とは、高校一年の夏休み前から付き合っている。
夏休みに入る前日の七月二十日に
「会えなくなるの嫌だから俺と付き合ってください」
とストレートに告白されて、O Kした。
彼氏ができてから、おじいちゃん家に寄る回数は、めっきり減った。
大翔はサッカー部で、部活が終わるのを待って一緒に帰ったりするから、自ずとおじいちゃんは後回しになった。
週末も、じつは松ぼっくり公園のサッカー場で、大翔たちが大学生のチームなんかと練習試合をするときもあって、信子も応援に行くのだが、おじいちゃんの家には寄らなかった。すぐ近くなのに。
おじいちゃんごめんねと、いつも心の中で思っていた。
こうした後ろめたい気持ちを抱えたまま、おじいちゃんが死んでしまったので、信子もシンバの散歩を、父や母に押しつけることができなかった。
シンバの散歩が日課になったある朝、信子は二つのことに気がついた。
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